プロダクトデザインとは?その重要性とプロダクトデザイナーの役割と仕事のプロセスについて。
現代においてプロダクトデザインは製品の外観の良さだけではなく、機能性や使用感に関わり、消費者の購入意欲を左右する非常に大事なものです。本記事では、プロダクトデザインについて説明するとともに、私たちプロダクトデザイナーの役割と仕事のプロセスについて解説します。

製品においての重要性を増すプロダクトデザイン
そもそも「プロダクトデザイン」とは、どのようなデザインを指すのでしょうか。ここではプロダクトデザインとよく比べられる「インダストリアルデザイン」についても解説します。
プロダクトデザインとは
プロダクトデザインとは、その名のとおりプロダクト(生産品・製品)のデザイン(意匠)のことを指します。一般的に大量生産品のデザインに対して使われることが多い言葉ですが、芸術性の高い工芸品やオブジェのような少量生産品、一点もののデザインに対しても使われることがあります。
プロダクトデザインの対象となる製品は、自動車や家電製品といった先端技術を活用したものから、文房具や食器などの生活用品やインテリア雑貨まで、ありとあらゆるものです。また、近年ではデジタル操作部を中心としたUI/UXのデザインも含まれることがあります。そしてプロダクトデザインには「おしゃれ」や「美しい」といったデザイン性だけでなく、使いやすさや機能性、安全性も求められます。

インダストリアルデザイン
インダストリアルデザインとは、工業的な部品や機器などのデザインのことで「工業デザイン」とも呼ばれます。そしてインダストリアルデザインは、大量生産を前提とし、形状や材質、色合いなどのバランスが決められます。プロダクトデザインの違いは、インダストリアルデザインが工業的なデザインのみを指すのに対し、プロダクトデザインは工業的なデザインを含む、広範囲の製品のデザインを指します。
プロダクトデザインの事例 1
約3年間の研究開発より生み出した世界初のカーボン無水調理鍋シリーズ 「ANAORI CARBON KITCHENEWARE」
2014年からおよそ3年間の研究開発を経て穴織カーボン株式会社様(大阪府茨木市)との共同開発で生み出した、世界初のカーボン無水調理鍋「OVAL」を筆頭とした「ANAORI CARBON KITCHENWARE」カーボングラファイトのコーティング及び着色技術が世の中に存在しないという状況から、研究開発に深く携わりながら、様々な加工メーカー及び研究施設の研究者の皆様と沢山の話し合いと試行錯誤を重ねて、世界初のカーボン無水調理鍋をようやく生み出した喜びは計り知れない体験でした。

OVALは世界三大デザイン賞のiFデザイン賞・レッドドットデザイン賞・IDEA賞を完全制覇
プロダクトデザイナーという仕事の重要性
見た目と使いやすさの両方を兼ね備えたプロダクトデザインを生むのがプロダクトデザイナーです。しかし、プロダクトデザイナーはただ製品をデザインするだけが仕事ではありません。
まず、製品のコンセプトやターゲット層を決め、それに基づいて市場調査を行い、デザイン案を制作していきます。そして設計者や営業担当者らと密に連絡を取り合って進めていきます。したがってプロダクトデザイナーには、優れたデザインセンスだけでなく、幅広く何でもできるゼネラリストとしての能力が求められ、製品開発に関わる重要な役割を担っています。
ほかにもプロダクトデザイナーには、最新のトレンドや流行をキャッチする能力や、グラフィックデザインソフトに対するスキル、製造技術や人間工学など製品開発を行う上で不可欠な知識、製品化するまでに関わる人とのコミュニケーション能力などが求められます。
特に昨今は製品の差別化が難しく、製品の購入にあたってはデザインを重視する人たちも増えています。新たな市場の獲得を狙う企業も増加しているため、プロダクトデザイナーが活躍する場は、今後拡大していくことが予想されます。

顧客体験につながるプロダクトデザインの重要性
プロダクトデザインは、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス・CX)にもつながります。その重要性は以下のとおりです。
プロダクトデザインと顧客体験の関係
競合する製品が多い状況で企業が生き残るには製品に何らかの付加価値を付けて顧客に訴求しなければなりません。だからこそ、優れた顧客体験を提供して「継続的に取り引きしたい」と顧客に思わせることが重要です。
顧客体験を向上させれば顧客満足度が上がってブランドイメージのアップにつながり、大きな宣伝効果になります。また、顧客体験の向上は、企業にとって長期的に繰り返し購入し、第三者に宣伝活動を行ってくれるロイヤルカスタマー・リピーターの獲得も期待できます。
質の高い顧客体験に重要なポイントとは
質の高い顧客体験に重要なのは、顧客の声に耳を傾けることです。製品に対してユーザーが何を必要とし、何を望んでいるのかをしっかりと調査・共感して製品に落とし込むことが大切です。
また、顧客のロイヤルティを高めるような質の高い洗練されたデザインと究極の使いやすさが求められます。
プロダクトデザインの事例 2
オーディオテクニカ社の世界初のワイヤレス軟骨伝導ヘッドホン 『ATH-CC500BT 』
オーディオテクニカ社のブランドアイデンティティを大切にしながら、世界初の軟骨伝導技術による革新性と、コラボレーションならではの意外性を創出すべく取り組みました。下記のようなデザインコンセプトを共有しながら、数百枚におよぶスケッチと、モデリング・モックアップを繰り返し、時間をかけて技術者の皆様と創意工夫を重ねながら妥協なく創り上げた渾身作です。

2022年10月に発売開始した『ATH-CC500BT』は、好評により累計8万本販売のロングセラー。
プロダクトデザイナー仕事のプロセスについて
実際にプロダクトデザインの製品ができあがるまでには以下のような工程が必要です。
①コンセプトの設定
まずは製品のターゲットユーザーを定めて、そのユーザーがどのような状況で、どんな使い方をするのかといった製品のコンセプトを決めていきます。これらはクライアント側が設定してくることもありますが、プロダクトデザイナー自らが提案をし、クライアントとコンセプトを決めていくこともあります。

②市場調査
同じカテゴリーに分類される商品のトレンドを調査し、どのような製品が、どんな人たちに受け入れられているのかを調査します。現状を知ることが企画を成功に導くポイントになります。さらにターゲットユーザーの好みや要望をリサーチして、よりコンセプトやデザインなどを固めていきます。

③ラフスケッチの制作
市場調査の結果を踏まえて、プロダクトデザイナーが製品のたたき台となるラフスケッチを作成します。ラフスケッチを基に技術者、設計者、営業担当者などの関係者でさらにアイディアを出し合い、修正を重ねます。このとき、機能や素材なども決めていきます。

④模型作成と検証調査
修正したラフスケッチを基に主に3DCADを用いた3DCGレンダリングの制作や模型を制作します。特に精巧な模型を作成することで製品の見た目や使用感などを実際に確かめる検証調査ができます。そのため、模型制作にはデザイナーとしての技術スキルやセンスが問われます。模型ができたら形状、素材、質感などを精査し、問題があればさらに変更・修正を行います。場合によってはこの段階で大きな変更・修正が入ることもあります。

⑤3DCADデータとCGレンダリングのブラッシュアップ
関係者からの多くの意見や要望を踏まえてラフスケッチ、3DCADデータ制作、模型製作、検証調査を繰り返して実際の製品に近いものまで作り上げていきます。このとき、製品化してもトラブルはないか、機能は実現しているかなども検証して完成度を高めていきます。特に工業部品などはミスが許されないため、何度も修正を行い、デザインを完成させていきます。
最終的なデザインが決まったらCGレンダリングの清書を行います。

⑥CMFデザイン
CMFデザインとはカラー・マテリアル・フィニッシュのデザインです。最終的に製品の完成度を上げる仕上げの工程で、エンドユーザーにより付加価値を感じて頂けるかどうかによって、売れ行きに大きく作用する重要な工程です。、昨今ではどの業界でも特に重要視され、CMFデザイナーという専門職をおいている企業もあるぐらいです。具体的には製品のカラーバリエーション、素材の選定、仕上げ処理等の提案を行い、綿密な検討を重ねて使用を決めていきます。

⑦設計支援
デザインが決定したら設計担当者が設計図を作成します。その設計図から最終的な試作品を作成し、デザインや機能、素材などに問題がないことを確認しながら、修正が必要なときにはデザインの修正を行います。

⑧製造・量産支援
安定して大量に生産するために、多くの場合、金型や専用の機械が作られます。金型や工程の都合で、デザインを変更しなくてはならない事態が発生することもありますので、その都度設計者や工程管理者と協議しながら最適な対応策を考案し解決していきます。
これらの多くの工程を経て、ようやく商品として生産され、品質保証のために検査し、問題なければ出荷、配送、販売されてようやく顧客に商品が届きます。

プロダクトデザインの事例 3
最大90度の広範囲を“常時”暖め、『暖かさを分かち合う』をコンセプトとした、
山善社の『ワイドレンジカーボンヒーター“Shareheats”』
従来の首振り機能ではヒーターが向く方向しか暖かくなかったところを、複数のヒーター(筐体)を横に連ねたことで、最大90度の広範囲を“常時”暖められる「ワイドレンジ」構造の画期的なヒーターです。筐体が3連タイプの『DC-ZT12』と2連タイプの『DC-ZW08』があり、どちらも左右の筐体は4段階で角度設定が可能で、暖めたい範囲を調整できます。熱効率が良く速暖性に優れた遠赤外線のカーボン管を使用しているので、電源を入れるとすぐに暖まります。従来品と同程度の消費電力で、広範囲を常時暖めるほか、出力切替機能で使用シーンにあわせて調整できるので、活用することで電気代節約にも役立ちます。
私たちのプロダクトデザインにより、“暖かさを分かち合うこと”をコンセプトに、シンプル&スリムなスタイリングと、「ワイドレンジ」の画期的な機能性の両立を実現しました。

開発ストーリー
山善様から今までの電気ストーブにはないような革新的な機能とデザインを備えた製品をつくりたいというご要望を頂き、コラボレーションプロジェクトがスタートしました。
実際には電気ストーブとしての新しい要素技術が無い中で、どのようにそれを実現するかということは困難を極めました。
私たちはまず、どのような機能であれば新しい価値を生み、お客様に喜ばれるのかということから考案し、ワイドレンジに暖められ、暖かさを分かち合うことを製品コンセプトに設定しました。
それを実現する幾多のアイデアを50案を超える膨大なスケッチでご提案し、実現性を踏まえて最終的にいきついたのが、ヒーター管ごとに筐体を分け、独立して回転させるという機構でした。
この機構のアイデアにたどり着き、デザインコンセプトの「スタイリッシュ&スリム」との両立の実現を図りました。新しい機能性から考え、理にかなったデザインに落とし込まれていることが本製品の何よりの特長です。
また、お手頃な価格で製品をお客様へお届けするための工夫にも思考を凝らしました。
ヒーター管ごとの筐体を共通化し、簡単に手動で筐体を回転させる機構により、首振りのためのモーターを削減すること等でそれらを実現しています。
そして暖かさを分かち合うことで、一緒に暮らす人々のコミュニケーションと関係性がよりよくなり、身も心も温かくなるような新しい暖房器具になるように想いを込めて「Shareheats」と名付けました。
まとめ
新商品を開発しても既存の類似商品との差別化が難しい現代において、顧客体験につながるような商品を生み出すプロダクトデザイナーはとても重要な仕事です。そして、顧客の要望に寄り添って誕生したプロダクトデザイン製品は、ロイヤルカスタマー・リピーターの獲得につながり、企業成長の切り札となります。プロダクトデザインは様々な国・規模の企業様との製品開発と国際的なデザイン賞の受賞歴が豊富な私たちにご相談ください。
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